側頭葉てんかんに対する海馬多切術

内側側頭葉てんかんの手術法としては海馬扁桃体摘出が第一選択です。しかし、海馬の萎縮や硬化のない内側側頭葉てんかんでは、手術後に著しい記銘力の低下が生じる場合があります。この問題を解決するため、東京都立神経病院の元部長の清水弘之先生らが海馬多切術を開発しました。この手術は、発作の抑制と記銘力の温存を図った手術法です。

この手術法は、まず側頭葉と前頭葉の間のシルビウス裂という脳の隙間からアプローチし、側頭葉の内側にある海馬に到達します。その後、海馬の短軸方向に5−6本の切れ込み(図の点線)を入れていきます。この切れ込みによって、海馬の長軸方向にそって伝わるてんかん波の伝播を抑制します。なお、記銘力は海馬の短軸方向の繊維から海馬采に伝わる経路が重要とされているため、維持されるというのが理論です。

手術の長期効果など、不確定な要素もありますが、一部の患者様には喜ばしい結果をもたらす手術法と考えています。