てんかん外科治療の問題点

てんかんの外科治療の問題点は、①てんかん手術に特徴的な問題点と、②脳神経外科手術全般の問題点 にわけて考えると分かりやすくなります。以下に説明を加えます。

①  てんかん手術に特徴的な問題点
(1)  焦点切除術の場合
側頭葉てんかんに対する海馬扁桃体摘出術
前頭葉てんかんに対する焦点切除術、前頭葉切除術/離断術
部分てんかんに対する 焦点切除術
片側半球の広範囲に焦点が存在するてんかんに対する大脳半球離断術、側頭頭頂後頭葉離断術、中心部温存の大脳半球離断術

切除すべきてんかんの焦点に、 言語、運動、記憶、視覚などの脳機能が近接して(あるいは重なって)存在していることがあります。例えば、下の図の赤い部分が、切除すべきてんかん焦点である場合、摘出範囲が大きいと左側の運動機能の低下の可能性があります。(意図的に脳機能の低下を許容してでも、完全なるてんかん焦点切除を目指す事もあります。)  手術前の検査で、どこまで手術すべきなのかを出来る限り正確に把握することが必要です。
どこはだめ半球離断術の場合には、てんかん焦点側の大脳半球に残存している脳機能が失われます。なるべく早期に手術することにより、ある程度の可塑性(代償機能による回復)を期待することができます。

(2) 脳梁離断術の場合
急激に脳梁が離断されることによって起きる、離断症候群があげられます。離断症候群には、急性離断症候群と慢性離断症候群があります。急性離断症候群は、手術直後から数週間の間にみられる症状で、無言無動状態になったり、食事摂取が不良となったりします。次に、慢性離断症候群は、半身の感覚低下、歩行障害、他人の手徴候などがあります。小児の場合は、急性離断症候群、慢性離断症候群ともに出現しない場合がほとんどとされていますが、成人の場合には顕著に出現することがあります。その為、まず前方2/3の脳梁離断を行い、発作抑制が不十分なときには、後方1/3の脳梁離断を追加することもあります。頻度は低いですが二期にわけて脳梁離断を行っても、慢性期の離断症状が残る場合があります。

(3) 迷走神経刺激療法(Vagus nerve stimulation:VNS)の場合
刺激装置により、迷走神経が刺激されることによっておこる症状があげられます。嗄声、咳、呼吸困難感が主な合併症です。多くの場合はこれらの症状は慣れてきますが、中にはこれらの症状が原因で刺激電流値を上げられない方もいます。次に、迷走神経が刺激されることによっておこる徐脈、心静止が挙げられます。これは、手術中に徐脈や心静止にならないかチェックしますので術後に問題になることはほとんどありません。

②  脳神経外科手術全般の問題点
迷走神経刺激術以外のてんかん手術は開頭手術ですので、一般的に行われる脳手術と同様の問題点があります。手術中の脳の損傷  (脳自体あるいは脳血管、脳神経の術中損傷)は、損傷程度によっては重篤な合併症に至る可能性があります。手術操作自体以外にも、全身麻酔のリスクや使用する薬剤の副作用の可能性もあります。手術が終わって数日以内は術後出血や肺塞栓の可能性があります。また、手術後1-2週間は傷口などの感染症や脳脊髄液の漏れに注意が必要です。慢性期には傷口の違和感が問題となる場合もあります。

総じていえば、これらの合併症が発生する可能性は低く、また、早期に適切に対応することで多くの場合は回復が可能です。しかし、合併症の可能性はゼロにはなりません。十分なインフォームドコンセントの上での治療方針の決定が不可欠といえます。